2019年「カササギ殺人事件」、そして2022年の「ヨルガオ殺人事件」の続編である。ギリシャでのホテル経営に退屈し、アンドレアスと別れてロンドンに戻ってきたスーザン・ライランド。フリーランスの編集者として再出発した彼女のもとに、ある日「因縁」の企画が持ち込まれる。
かつて彼女がクローヴァーリーフ・ブックスで働いていたときに担当し、ベストセラーとなり、そして同社が潰れる原因ともなったアラン・コンムェイの「名探偵アティカス・ピュント」シリーズの続編をある若手作家が書くことになったので編集を依頼したいというのだ。
相手は大手コーストン・ブックス。この仕事の出来如何では不安定な外部スタッフではなく安定した収入と福利厚生が約束された社員になれるかも知れないと俄然その気になるが問題はその若手作家だった。それはかつてクローヴァーリーフ・ブックスから二冊のミステリを出版したが鳴かず飛ばずだったエリオット・クレイス。そして三作目を書かせることに断固反対したのがスーザン自身だったのだ。
ところが渡された「ピュント最後の事件」の途中までの原稿はなかなかの出来だった。エリオットに対する見方を改めたスーザンはこの企画をものにしようとエリオットと打ち合わせをするうち、彼があのアランと同様作品のなかに何か別の企みを仕掛けていると感じるようになる。
それは高名な児童文学作家だった彼の祖母ミリアム・クレイスの「病死」に関わるなにからしい。作品をより良いものにしようとその背景を調べ始めるスーザン。しかしその行動はミリアムの遺産を管理する財団の不興を買う。もともとエリオットは一族の鼻摘み者的存在だったのだが、問題はそれだけではなく…。
前の二作と同じく、劇中劇というかスーザンの担当する小説世界と現実(いやそれもフィクションなんだけど)が微妙にシンクロしながら展開するストーリーが見事。読者に対する罠がたくさん仕掛けられていて「それは解ってたぜ」や「なに、そうだったのか」をいくつも味わえる。
巻末の「謝辞」によれば、前二作と同様これもレスリー・マンヴィル主演で映像化されることが決定しているらしい。日本ではまたWOWOWが最初だろうか。
