危険なプロット フランソワ・オゾン監督

 新学期から従来のリベラルな教育方針が変更され,生徒全員が制服の着用を義務付けられたことに批判的な国語(フランス語?)教師,ジャルマン(ファブリス・ルキーニ)。担任となった2年C組の生徒たちが提出してきた宿題,週末の出来事を題材にした作文を採点中,他の子供とはあきらかにレヴェルの違う少年クロード・ガルシア(エルンスト・ウンハウアー)を発見する。

 その作文によれば,体に障害を持つ父親と二人暮らしのクロードはいわゆる「普通の家庭」に興味を持っている。それがどんなものであるか知るために,親が学校に迎えに来るのを嫌がらない(つまりは育ちがいいということだ)クラスメート,ラファ・アルトール(バスティアン・ウゲット)に近づく。数学の苦手なラファにそれを教えることを口実に彼の家を訪ねたのだ。

 自分の出した課題と格闘するラファを部屋に残し家のなかを「探検」するクロード。ラファの母親エステル(エマニュエル・セニエ)に「典型的な中産階級の女の匂い」を嗅ぎ,専業主婦である彼女のインテリア趣味を揶揄する。そのトゲのある文章に嫌悪を覚えつつ,ジャルマンは,そして彼にそれを読み聞かされた妻のジャンヌ(クリスティン・スコット・トーマス)も最後に記された「続く」の後が読みたくてたまらなくなる。

 彼の持つ文才を言い訳に(つまりその真の動機が自分の覗き見趣味であることを否定しつつ)クロードに続きを書かせるべく文学の個人指導を始めるジャルマン,クロードの作文はラファの父母の寝室にまで「侵入」し,いよいよ危ない方向にエスカレートしていく。そしてジャルマンは,ラファが数学で赤点を取ってプロの家庭教師が雇われるともう続きを書けなくなるというクロードの訴えにラファのカンニングの手助けまで…。

 クロードが書いているのはどこまで事実でどこから虚構なのか,それは果たして彼の意思なのかそれともジャルマンの指導の賜物なのか。虚実の境目はいつしか曖昧になってゆき,そして「結末」が訪れる。…いやぁ,なんつか徹頭徹尾フランソワ・オゾンですわ。このヒトしか書けない脚本,撮れない映画。好みはかなり別れると思うけど,傑作であります。


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