まず邦題に文句を言いたい。原題は「The Big Short」で,この場合の「Short」は株取引用語としての「Short」,日本語にすると「空売り」である。これはまんま,この映画のなかで主人公達がやったことなので,タイトルを意訳すれば「大空売り」…これぢゃゴロが悪いから「史上最大の空売り」(いや,ホントに史上最大かどうか調べてないけどね)くらいぢゃないか。
それが「マネー・ショート 華麗なる大逆転」ですよ奥さん,もうこれね,「ちょっとなんとかして欲しい」というレベルを超えてますよ。どっから「マネー」が出てきたか。お金の話だから? そうぢゃない。察するにこれ,同じ作者(マイケル・ルイス)の本を同じブラッド・ピットがプロデュースしかつ出演してるってんで「マネーボール」から持ってきたんではないか。もうよそうよそういうの。
邦題の情けなさに反して実話を元にした中身は傑作である。2005年,医学の博士号を持つ変わり種の金融トレーダー,マイケル・バーリー(クリスチャン・ベール)は何千もの不動産抵当証券を調査,解析するうちに,この金融商品が数年以内にデフォルトに陥る可能性…いや必然性に気づく。が,銀行も投資会社も彼の言うことを信じない。身なりにこだわらない彼を露骨に軽んじる奴も。
周囲の馬鹿さ加減に閉口した彼は腹を決める。このデフォルトが実現すれば莫大な保険料を得られるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)という金融取引を複数の投資銀行に持ちかけたのだ。各社は彼の申し出をぬれ手に粟の大儲けと歓迎。しかしその中に一人だけ,マイケルが正しいのかも,と考えた銀行マンがいた。
その男,ジャレッド・ベネット(ライアン・ゴスリング)はこのネタをモルガン・スタンレー傘下でヘッジファンド・マネジャーを勤めるマーク・バーン(スティーブ・カレル)の元に持ち込む。常日ごろから弱者を食い物にする金融界のどん欲さに反感を隠さないマークは,自ら住宅市場の実態を調べに行き,マイケルの予想の正しさを確信,勝負を決意する。
同じ頃,ひょんな偶然からこのCDS取引の存在を知った若き投資家ジェイミー・シプレー(フィン・ウィットロック)とチャーリー・ゲラー(ジョン・マガロ)のコンビは,これに勝負をかけるべく,隠遁生活を送る元銀行家の知人ベン・リカート(ビラッド・ピット)に連絡をとる。話を聞いたベンは二人への全面的な協力を約束する。
果たして不動産バブルが弾けるのはいつか。それが弾けるまで彼らはCDSに高額の保険料を払い続けなければならない…。
で,みんな知ってる通りこのバブルは2007年に弾け,いわゆる「世界金融危機」を引き起こしたわけなんだが,その原因がつまりあんだけ「博打ぢゃない博打ぢゃない」と喧伝されてた「不動産投資」をネタに,実は銀行やヘッジファンドが世にも分かりやすい(この仕組みをラスベガスのカジノで解説した寸劇は見事)丁半博打に打ち興じていたことである,ということがよーくわかる面白くてためになる映画。
ラスト近く,破綻して社員がみんな出て行った…あれはリーマンブラザーズかな? のオフィスにジェイミーとチャーリーが入って行くシーンで,通路のまんなかにレッドブルの缶がピラミッドのように積み上げてあったのが印象的。
